広島県では高齢化率が30%を超え、在宅介護の需要が年々高まっている。とりわけ訪問介護は、利用者が住み慣れた地域で自立した生活を継続するための基盤的サービスとして位置づけられている。しかし、介護人材の確保やサービス提供体制の地域偏在といった課題も顕在化しており、制度面・現場面の両方から再構築が求められている。本稿では、広島県の訪問介護の仕組みと現状を分析し、持続可能な地域ケアの方向性を考察する。
広島県の訪問介護制度と提供体制
広島県における訪問介護は、介護保険制度に基づく居宅サービスの一種であり、身体介護・生活援助・通院等の世話を中心に提供される。県内ではおよそ1,000を超える事業所が登録されており、特に広島市や福山市など都市部に集中する傾向がある。一方で、中山間地域では事業所数が限られ、利用希望者に対するサービス供給が不足する地域も存在する。
介護職員の確保難は全国的課題であるが、広島県でも離職率の高さと担い手の高齢化が深刻化している。こうした現状を踏まえ、県および自治体は処遇改善加算の活用や研修支援によって人材定着を図るとともに、地域包括支援センターを中心とした在宅支援ネットワークの再編を進めている。
制度運用上の特徴と利用者の実態
広島市を中心とする都市部では、訪問介護の利用率が介護保険受給者全体の約30%前後を占めており、在宅介護の主要な柱として機能している。利用者の中心は要介護2~3の高齢者で、入浴・排泄・調理などの日常生活支援を必要とするケースが多い。
また、医療的ケアや重度障がいを伴う利用者に対しては、訪問看護や福祉用具貸与と連携した包括支援が求められる。これにより、単一サービスでは対応しきれないニーズを多職種協働で補う体制が整備されつつある。
ただし、介護報酬の改定によって生活援助時間の基準が厳格化されたことにより、事業者側の運営負担が増大し、利用希望者への柔軟対応が難しくなるケースもみられる。制度設計と現場実態の乖離は、地域ケアの持続性を左右する重要な論点である。
今後の方向性と広島モデルの可能性
広島県では、今後の地域包括ケアの中核として訪問介護を再定義する動きが見られる。その方向性は、①人材確保策の深化、②ICT・AIの導入による業務効率化、③医療・介護・生活支援の一体的提供の3点に整理できる。
特にICT活用は、訪問介護計画のデジタル共有やオンライン会議を通じて、サービス調整の迅速化を実現している。こうした仕組みは、職員の負担軽減と情報の一元管理を可能にし、限られた人材資源の最大活用につながる。
また、地域ボランティアやNPOによる補完的支援も注目されており、制度の外側から生活支援を支える新しい共助モデルとしての広がりを見せている。広島の訪問介護は、単なる介護サービスの提供を超え、地域が自ら支え合う仕組みへと進化する過程にある。